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東京地方裁判所 昭和38年(タ)303号 判決

原告 シヤーリー・エセル・スカリオン

被告 マイケル・ジヨセフ・スカリオン

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として

一、原・被告は、ともにカナダ国籍を有する者であるところ、昭和二〇年(一九四五年)三月一日カナダ国ケベック州モントリオール市において適法に婚姻し、婚姻後その住所を同国ブリテイツシユコロンビア州バンクーバー市コモツクス街一〇四一番地に定め、同棲していた。然るに被告は昭和三七年(一九六二年)四月に至り、西モントリオール市居住のシヤーリーウツドなる女性と情交関係を結び、バンクーバー市所在の前記被告の住所地で同月一日から同年五月二八日まで同棲した。

二、以上の被告の所為は被告の本国法たるカナダ国ブリテイツシユコロンビア州法の離婚原因「姦通」に該当し、更に日本民法第七七〇条第一項第一号の「不貞行為」に該当すること明らかであるので右事由により裁判上被告との離婚を求める。と述べた。〈証拠省略〉

理由

一、まず日本の裁判所が本件離婚訴訟につき裁判権を有するか否かにつき判断する。差戻前の控訴審における被告本人尋問の結果に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めうる甲第一号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めうるから真正な公文書と推定すべき甲第二号証及び乙第一号証、前顕本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したものと認めうる乙第二ないし第四号証を綜合すれば、原被告はいずれもカナダ国籍を有する外国人であつて、妻である原告はカナダ国内に在住するが、夫である被告は、昭和三七年(一九六二年)六月二日トランス・カナダ航空会社(TRANS-CNADA AIR LINES)の日本及び東南アジア地域担当営業支配人(DISTRICT SAIES MANEGER)として日本に着任し、以来東京都帝国ホテル内の同会社事務所で執務していること、右営業支配人の地位は永続的職務たるべく予定されているので、被告はすくなくとも三年以上五年位日本に在住すべきことが予想されること、従つて、被告は差当り三年間日本に居住するための旅券査証(ビザ)を受け且つ同年一二月二六日東京都港区芝新堀町一九番地に食堂、寝室、炊事場、浴場その他を備えた、四室二階建住宅一戸を賃借し、その頃からこれに居住していること、右賃貸借契約書(乙第四号証)の上では賃借期間を二年と定めてあるけれども、右は実質的にはいわゆる地代据置期間にすぎず、被告は永住の目的でこれを賃借したものであること、及び被告は外国人登録法に基く登録をなし、且つ所得税法に基く昭和三七年度所得税一六一、七〇〇円を納付していること、をそれぞれ認めることができる。而して離婚訴訟の当事者双方が外国人である場合における裁判権に関して、わが国には成文の規定がないけれども、すくなくとも、被告がわが国内に住所を有する場合にはわが国の裁判所が裁判権を有するものと解すべきところ、前記認定の事実関係によれば、本訴の被告は、現在わが国内において右の意味における住所を有するものと認めるのが相当である。従つて本件離婚訴訟についてわが国裁判所は裁判権を有するものといわねばならない。

二、よつて本案について判断するに、前顕甲第一、二号証に差戻し前の第一審及び控訴審における被告本人尋問の各結果を綜合すれば、原告主張の請求原因一の事実をすべて認めることができる。

三、法例第一六条によれば、離婚については、その原因事実発生当時における夫の本国法によるべきであるから、本件には夫である被告の本国法即ちカナダの法律を適法すべきであるが、同国は地方により法律を異にするから法例第二七条第三項により、被告がその住民となつているブリテイツシユコロンビア州の法律によるべきところ、同州法上、離婚については夫の住所(ドミサイル)の存する法廷地法を適用すべきこととされているので、法例第二九条により、本件離婚については結局日本民法が適用されることとなる。而して前段認定の事実は日本民法第七七〇条第一項第一号にいう不貞の行為に該当するというべきである。

四、よつて原告の請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄 小河八十次 岡崎彰夫)

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